トークイベント「未来の社会に投資する〜ビジネス×NPOでつくる社会的インパクト」が2023年1月、オンラインで開催され、日本ファンドレイジング協会代表理事・鵜尾雅隆氏と、サクラグ代表取締役・遠藤洋之が対談しました。
ビジネス・セクターもNPOセクターも未来の社会をよくしていく目的を持つ点で共通しているので、ビジネスとNPOが掛け合わされれば(ビジネス×NPOとなれば)社会的インパクトは相当大きなものになるはずです。
鵜尾氏と遠藤は寄付やインパクト投資をキーワードに、ビジネスとNPOの協働が生み出す可能性について語り合いました。
※社会的インパクト:企業や人々などが事業や活動を行った結果、社会的または環境的な変化や成果が生まれること。社会的インパクトに貢献するための投資をインパクト投資という。
寄付は、社会課題を解決するための社会投資
対談に先立ち、遠藤がサクラグの社会貢献について説明しました。遠藤は自社を成長させていくことと、寄付やボランティアなどを通じて社会貢献していくことが、経営者としての自分の使命であると訴えました。
これについて鵜尾氏は、寄付は社会への投資であり、それらを使って社会課題を解決していくことが日本ファンドレイジング協会のミッションであると応じました。
鵜尾氏「寄付でやり取りするのはお金だけでなく、企業であれば従業員たちの能力や経験、知見なども対象になり得ます。NPOとの協働も、寄付=社会投資=社会貢献につながるんです」
パーソンパワー、時間、技術の寄付とは
鵜尾氏は、企業はパーソンパワーに加えて、時間や技術も寄付することができると話しました。その例として、IT技術を持つ企業が社会課題に挑んでいる人たちのためにホームページをつくったり、データベースを設定したりすることを挙げました。
遠藤「サクラグはシステムやWebサイトをつくっていますが、この技術をNPOに提供することも支援として有効でしょうか?」
鵜尾氏「それは意義深いことですね。たとえば、貧困状態にあるシングルマザーが仕事を探すことができるスマホ・アプリをつくる。この技術提供は、とても意義のある支援です」
サクラグでは、子育て中の親などを対象とした、DEIを推進する採用マッチングプラットフォーム『Sangoport(サンゴポート)』を運営していることもあり、遠藤にとっては非常に身近なテーマ。
遠藤「シングルマザーの支援方法として、スマホ・アプリをつくるという寄付のニーズがあるということですね」
iPS研究への寄付や育休明け復帰率100%目標は社会貢献の仕方の可視化である
サクラグは公式サイトで、iPS細胞研究所に寄付していることや、育休明け復帰率100%を目指していると宣言しており、鵜尾氏はこれを高く評価しました。
ではなぜ寄付の現状や育休制度の拡充を公表することがよいことなのでしょうか。
鵜尾氏「このような事実を公開することは会社の信用補完になる。こういうことをこっそりやるのではなく、ちゃんと表に出すことは大事なことです」
鵜尾氏は、サクラグの行動は社会価値の寄付になるとしたうえで、これを「社会貢献の仕方の可視化」と表現しました。
遠藤は寄付やSDGsの取り組みは、サクラグ全体で取り組んでいると紹介しました。
不平等を解消したくて社会問題に立ち向かう団体を支援
鵜尾氏はインパクト投資について、日本発の考え方が海外で高く評価されていると分析しています。
鵜尾氏「さらに経営者や企業は、ビジネス内でもビジネス外でも、自分の利益をあげること以外の仕事に取り組むことで、インパクト投資を進めていくことができます」
遠藤「自分を突き動かすものの根源は、社会にはびこる“自分で変えられない不平等”を解消したいという使命感なんです。その想いから、ジェンダーや子どもの虐待、難民といった問題に立ち向かっているNPOなどの団体を支援しているんです」
未来志向のNPO×現実的な民間企業 2者の協働が必要
鵜尾氏はここで、貧困問題などの社会課題を解決するには、未来志向のNPOと現実的で実務が得意な企業が協働する必要がある、と指摘しました。
NPOは社会課題をいち早くみつけ、未来の社会をよくするためにすぐに動き始めます。これが鵜尾氏のいう、「NPOの未来志向」です。
しかしNPOは未来をみすぎる傾向があり、その結果足元がおぼつかなくなることもあります。
一方の企業は現実的かつ実務的なことが得意なので、NPOは企業とパートナーシップを組むことで自分たちの基盤を強化できます。企業はNPOに協力することでインパクト投資を実施でき社会貢献につなげることができます。
鵜尾氏「NPOと企業はお互いの強みと得意技をかけ合わせていく必要があるんです」
個人の社会貢献推進のために企業ができること
遠藤は次に、個人は何をすべきかと鵜尾氏に問いました。
鵜尾氏「個人が社会貢献をするにはスイッチが必要なんです。人は喉(のど)が渇いたらすぐに水を飲むという行動に出ますよね。でも社会貢献はやらなくても死ぬわけじゃないから、内発的な欲求みたいなものが必要になるんです」
内発的な欲求こそ、社会貢献のスイッチというわけです。
ではどのようにすれば個人は、社会貢献への内発的な欲求を持てるようになるのか。鵜尾氏はここでも企業の役割は大きいとみています。
鵜尾氏「企業が社会貢献に取り組めば、従業員も関心を持つようになります。関心を持てば次第に“自分でも動いてみたい”と思うようになるでしょう」
鵜尾氏はさらに、サクラグがジャパンハートと一緒にトークイベントを開催したことに触れ、「ジャパンハートの人の話を聞いたことで、サクラグの従業員のなかに心を震わせた人がいたはず。それが個人による社会貢献のスタートになると思います」と述べました。
企業は従業員に社会貢献の接点を提供することができます。
出会いの連鎖が生まれる「思い立ったらすぐに行動」
遠藤は、2019年に千葉県館山市が大型台風の被害に遭ったとき、メンバーを連れて復興ボランティアに参加しました。このとき遠藤は鵜尾氏と出会いました。
館山では、以前サクラグの社員旅行で泊まったことのあるホテルも被害に遭っていて、遠藤はあらためて衝撃を受けました。
遠藤「この経験から僕は、思い立ったらすぐに行動することが社会貢献になることと、そこからさまざまなご縁が生まれること、の2つを学びました」
鵜尾氏「私もそういった出会いの連鎖を実感します。1人の個人のものの見方が社会を変えることがあります。新しい法律や新しいビジネスは確かに社会を大きく変えますが、人々のものの見方が変わっても社会の空気は変わります。そして、人々のものの見方を変えるスタート地点、それは1人のものの見方を変わることなんです」
責任を厳しく求めすぎる傾向にある日本、コロナ禍での変化
トークイベントの参加者から2人に「社会問題があたかも自己責任であるかのようにみなされ、その解決が後回しになっているイメージが日本にはあります。これはなぜなのでしょうか」という質問が寄せられました。
鵜尾氏は、日本の社会は人々に自己責任を厳しく求めすぎる傾向があると認めました。そのうえで、家庭に引きこもる人の率が、日本は世界と比べて圧倒的に高いと指摘。
理想の姿は、地域社会やNPOが引きこもっている人たちをサポートすることですが、日本では引きこもるのは家庭に責任があると認識してしまう人が多いといいます。そして、その延長線上に、孤立したり孤独になったりするのは本人の責任だ、という考え方があります。
鵜尾氏「しかし、コロナ禍で多くの人が孤立、孤独を体験したことで、“孤立、孤独になるのは自己責任ではない”という考え方が広がりつつあると感じています」
社会が少しよい方向に向かっているという見方です。
遠藤「自己責任には、人に迷惑をかけてはいけない、というよい考えも含まれているけど、いまは悪いところが強調されてしまっていますよね。僕の好きなインドのことわざにもあるんですが、人は生きていれば必ず他人に迷惑をかけるのだから、自分が迷惑をこうむったら迷惑をかけた人を許してあげる社会のほうがよいと思っています」
人々のウェルビーイングを高める社会貢献
鵜尾氏は最後に、日本でも世界でも、コロナ禍やウクライナ戦争をとおしてウェルビーイング(幸福)について真剣に考えるようになってきたと分析しました。
これに対して遠藤は、サクラグが運営する”DEIを推進する採用マッチングプラットフォーム『Sangoport』”は、時短で働くパパ・ママや、社会人経験35年以上のシニア、LGBTQ+と呼ばれるジェンダーに悩みを抱えている方々に特化したものであると紹介。サクラグがこの事業に力を入れるのは、働き甲斐が得られにくい人たちにそれを提供したいからです。
そして遠藤は、サクラグのこうした事業が、鵜尾氏のいうウェルビーイングを高めていくことにつながっていくことを願っている、と結びました。